畑小僧-前編


投稿者:ж関口宏ж


昔々加賀国に権七という百姓がおったそうな。 権七はたいそうな働き者でくる日もくる日も畑仕事。 畑仕事がすきであたりからは「権七どんは土と結婚したから嫁はいらねえ」と囁かれておった。そして、権七も同じように考えていた。 ある秋のことじゃった。権七はいつものように日の上る前に起き、朝食も食べずに畑へ出ようとしたところ、ガラリと門がひとりでに開きおった。 よくよくみると門の前には背丈4尺ばかしの童が立っており、権七のほうをじいっとみつめているのである。 「おい、どうした童、こんな時間に。」と権七が問うと、童は「オイラはあんたの子供だい。見りゃわかるだろ。」と言う。確かに童は幼いながらも権七によく似た貧農顔をしているし、土が体にへばついたような肌の色もしている。しかし権七は先にも述べたように土と結婚したいと思っているような仕事人間。子作りの交わりなど生涯で一度もしたことがなかった。 「やい童、おれはな、童貞なんだ。童貞に子供ができるわけないじゃろが。大人を騙すつもりだろうが今回は相手が悪かったな。他所をあたんな。」と言い捨て、戸をピシャンと閉めた。少しは戸を叩くなり抵抗があるものかと思ったがすっかり物音がしないので、こっそりおもてを覗いてみると童の姿はなかったので、「切り替えのはやい童じゃのう。」と独り言をつぶやき、畑へと向かった。

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