アニメバトラーF 序章「アニメを観る者」


投稿者:JVM森島


「あんた、このままだとアニメになるわよ」





俺の名前は普羅朽矢、しがないサラリーマンだ。
だが、こんな俺にも人に自慢できる点が1つだけある。今まで視聴してきたアニメの総数だ。
俺は30分アニメを100話、1日に観ている。もちろん土日以外は7.5時間働きながらだ。1日に100話も観れるわけないだろって?心配はいらない、俺にはそれをこなしきるだけのアニメ力(ぢから)があるから。
もちろんこんなスキルは何の役にも立たないが、そう知りながらも研鑽は続けていくのだろう。
そう思っていたんだ、あの日までは。
「ふぁ~ぁ、終わってないけど終わった」
今日も雑居ビルの隅の自席で誰とも目を合わせることもなく表計算ソフトの画面をマウスホイールでぐにぐにスクロールするだけで仕事を終わらせてしまった。
業務用PCのモニタにはすっかり表計算ソフトの無機質なグリッドが焼き付いてしまっている。幸い誰にも咎められることはないが、これはこれで結構疲れるんだよな。
満員電車に揺られながら帰路につき、母ちゃんが用意してくれたマーボー春雨をご飯と一緒にさっさとかき込んだら自室に急ぐ。時間は有限なのだ。
「さーて、今日もいっちょ萌えますか」
アニメ視聴前のお決まりのセリフをボソッと薄暗い自室で呟く。
もうアニメをDVDやブルーレイで観ることなんかはほとんどなく、今はサブスク中心だ。
サブスク限定配信のオリジナルアニメなんかが当たり前な今、財布は痛いものの複数サービスに同時加入している。世はまさにアニメ大航海時代に突入しつつある。
数多のサービスの中で特に注目すべきは『アニメ大王』だな。レベルの高い合格点を超えるアニメをオールウェイズ提供してくれる、品質に定評のあるサービスだ。
特徴として、ここで配信されるアニメは勢作陣が一切明かされていないことが挙げられる。
監督や脚本ベースで視聴アニメを選定する俺からするとやや不満ではあるが、そんなことはどうでも良くなるくらいのクオリティのアニメをここで観ることができる。しかもこれで月100円っていうんだから競合の中で頭一つ抜けていると断言できるだろう。
もうここ一本でいいかもな...そう思いながら今日もブラウザから『アニメ大王』にアクセスする。
俺が今ハマっているアニメは『お隣の新妻のお尻がデカすぎた上に処女だった件について』だ。
慣れた手つきで8話の再生ボタンを押下すると、新妻の大きすぎるお尻によりデニムの生地が破られてしまうシーンが画面に映し出される。 これでいいんだよ、これで。
プリミティブな萌えしかいらない、俺はストーリーという贅肉を限界までそぎ落とした萌えアニメが観たいんだ。
まずい、抑えきれない。俺はアニメを観ている最中に感極まると腕を振り上げる癖があるんだ。
勝手に上げればいいだろ、と思うかもしれないがこの前自室に入ってきた母ちゃんを振り上げた拳でノックアウトしてから自重している。
しかし新妻の光り輝く巨尻が画面ドアップになった瞬間、我慢の限界が唐突に訪れた。
「アニメーーーーーーーーーーーッ!!!!」
と叫び腕を振り上げた刹那、何者かにギャッと腕を捕まれる。
振り向けばそこには金髪碧眼の、豊満な体にはやや不釣り合いなあどけなさを残した顔立ちの少女が立っていた。
一体どこから入ってきたんだ?と言葉を発する間もなく彼女は淡々とした口調で彼に告げた。
「あんた、このままだとアニメになるわよ」
何を言いたいのかはさっぱりだったが、終わりなき闘いが始まろうとしていることを俺の肌は既に感じていた。
第一章「放たれしアニメバトルの嚆矢」へ続く

削除パスワード:

前に戻る





トップに戻る


Copyright(C) 2014 Web Master しるログ All Rights Reserved.